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| アトランティス大陸の謎 久保田 八郎 | |
| 第1章1話 これがアトランティスだ! |
-はじめに- 哲学者プラトンが伝え聞いた理想郷! 昔から、地球上に謎の物語はつきないが、幻の大陸アトランティスほど、人びとの心をかきたててきた話はないだろう。今を去る1万2000年の昔に一夜にして沈んだというこの大陸について、じつに5万点の書物が書かれたというが(一説では2万点にのぼるという)、いまだにアトランティスの実在を証明した人はいない。 現代人が目を見はるほど高度な文明を築き、住民は宇宙の法則に従った生き方をして、精神的にも鮮新にすぐれていたアトランティス帝国とは、いったいどのような国だったのか。 本書では、アトランティスにまつわる物語や、多くの調査研究結果などを多角的にとらえて、幻の大帝国を浮上させることにしよう。 |
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■ サイズの老神官の話 今から約2500年前、紀元前6世紀のことである。ギリシア七賢人のなかでも、もっとも賢い男とわれたソロンが、エジプトのサイスの地を訪れた。サイスは古い学問都市で、女神イシスの学院があったところである。賢者ソロンの評判は、ここでも高く、彼は大いに歓迎された。
ある日のこと、ソロンは、サイスの神官たちにかこまれて、ギリシアの古い時代の物語を話していた。地上最初の人間といわれるポロネウスとニオペの話、そして世界をのみこんだ大洪水と、それを生きのびたデウカリオン、ビュルラなどの話を語ったのである。 すると、話を聞いていた神官たちのなかでも、ひじょうに年老いた神官のひとりが、こういった。 「ソロン、君たちギリシア人はいつまでたっても子どもだなあ。老いたギリシア人というものはどこにもいないではないか」 これを聞いたソロンは話を中断し、どういう意味か、とたずねた。老神官はこたえてこう語った。 「君たちの魂が若いということだよ。なぜなら、君たちの魂のなかには、昔の伝説にもとづく古い学問もないからだ。第一、大洪水は今までに何回もあったのに、君たちはそのひとつしか覚えていないではないか。そのうえ、きみたちの住むアテナイには、9000年前、人類のなかでももっとも美しく、もっとも勇敢で、もっとも優秀な種族が住んでいた。彼らは大洪水で滅んでしまったのだが、じつは君たちアテナイ人こそ、この最高の種族の血を伝える者なのだよ。このようなことさえも知らない君たちは、まことに子どもとしかいいようがあるまい。」 老神官の話にソロンはひじょうに驚いた。そして、自分たちの先祖にあたるこの種族について、もっとくわしく知りたいと望んだ。 「よろしい、ソロンよ。君のためにも、君たちの国のためにも話そう」 そういって、この老神官は9000年前のアテナイ人の祖先と、その国がなしたすぐれた業績について語りはじめたのである。そして老神官の話は、勇敢な彼らが、大西洋から押し寄せてきた大勢力をいかにして食い止めたかということにおよんだ。老人はつづける。 「そのころ、大西洋側からヨーロッパ、アジアに攻めてきた一大勢力を、君たちの国は防いだのだ。この軍勢は、君たちがヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡)と呼んでいる海の入口の向こうにある島からやって来た。この島はリビア(アフリカ)とアジア(小アジア)を合わせたよりももっと大きく、強大な驚くべき王の権力によって支配されていた。その権力は島全部だけでなく、他の多くの島じまからエジプト、ヨーロッパ西部にまでおよんでいたのだ……」 この強大な権力をもつ島こそ、われわれの興味をかきたててやまないアトランティス大陸なのである。 ■ 立派な家系の大哲学者 エジプトの神官が賢者ソロンに向かって語るこの物語は、紀元前5世紀のギリシアの大哲学者プラトンの『ティマイオス』という書物に出ている。プラトンこそ、伝説の大陸アトランティスについて世界で最初に書き記した人である。では、プラトンとは、いったいどのような人物だったのか?
プラトンは紀元前5世紀、アテナイの名門の家系に生まれた。幼いころから、音楽や体育、詩の暗唱、悲劇や喜劇の観劇、議会や裁判の見学などの上流の教育を受け、将来は政治家として立つつもりであった。 しかし20歳になって悲劇の競演に参加しようとしたとき、彼は60歳を越えた老哲学者ソクラテスと出会い、その人格の高潔さと知恵の深さに大きなショックを受ける。彼はその場で自分の悲劇作品を焼き捨て、以後ソクラテスにつき従うようになる。 しかし、その後ソクラテスは、不当な陰謀にまきこまれて、死刑の判決を受けることになった。死刑執行までの1か月の間に、ソクラテスは国外へ逃亡することも可能であったにもかかわらず、「悪法であっても、法には変わりない」といって、あえてみずから死を選んだ。 この事件は、プラトンに強い衝撃を与えた。そして、師の死によって、彼ははっきりと自分のなすべきところを自覚したのである。つまり、哲学的探求である。 哲学というと、読者は何かとてもむずかしいことのように思われるかもしれない。しかし、じつは哲学とは、われわれにとってきわめて身近な問題なのである。つまり、この世界はいったい何なのか、人間とは何なのか、人間にとって善とは何であり正義とは何か、あるいは勇気とは何かといったことを明らかにしようとする学問である。 プラトンの生きた時代には、多くの戦いがあり、納得できないたくさんのことがあった。それだけに、いったい何を信じて生きればいいかと、彼は真剣に悩んだ末、哲学の道を選んだのである。
■ エジプトの神官はソロンに語った プラトンが著した多くの書物は、ほとんどが対話形式で書かれている。対話者はすべて実在の人物であり、かならずソクラテスが登場する。数人の対話者は、アテナイの広場や市場、ぁるいは宴の席などを舞台に、愛とは何か、勇気とは何かというテーマをめぐって、活発な意見を戦わせるのである。さて、36編にわたるプラトンの著作群のなかで、アトランティスにふれているのは、先にあげた『ティマイオス』と、その続編である『クリティアス』である。 『ティマイオス』では、はじめに書いたようにアトランティスの話は、きわめて簡単に述べられているだけだ。エジプトの老神官は、攻め入ってきた強大なアトランティス軍を勇敢に撃退したアテナイ軍について語ったのち、世界を襲った恐ろしい災厄について語る。
「君たちの国は、ヘラクレスの柱の内側に住むわれわれ全部を惜しむことなく解放した。ところがその後、とてつもない大地震と大洪水が起こって、君たちの国家は一日と一夜にして、そっくりそのまま大地の下に沈み、アトランティス島も同じく海の中に沈んで見えなくなってしまったのだ」 いっぽう、続編『クリティアス』 では、アトランティスの記述は細部にまでわたっている。 この本は、当時のアテナイの様子と、アトランティス帝国の様子を対照的に述べようとしたものであるが、残念なことに未完に終わっている。中断の理由はわからないが、もし完成されていれば、アトランティスをめぐる謎は、すでに解き明かされていたかもしれない。 ともあれ、『クリティアス』 におけるアトランティス大陸に関する記述をつぎにひもといてみよう。 |
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