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| アトランティス大陸の謎 久保田 八郎 | |
| 第1章2話 神官ソロンが語るアトランティスの様子 |
| エジプトの老神官が語るところによれば、アトランティスは、ギリシア神話の海神ポセイドンに分け与えられた土地であった。 |
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■ ポセイドンの領地だった エジプトの老神官が語るところによれば、アトランティスは、ギリシア神話の海神ポセイドンに分け与えられた土地であった。
ポセイドン ー この神は、オリンボスの神々のなかでも、もっとも恐れられていた神だ。イルカにひかせた車で海上をかけめぐり、三叉のホコをふるって暴風雨をひきおこし、領地の所有権をめぐって他の神々と争った。またポセイドンはたいへん気まぐれで、愛情深いやさしい表情から、一瞬にして怒りに震える残酷な表情へと変貌するのである。それはくずれやすい海の天気そのものであった。 アトランティス島をもらったポセイドンは、人間の妻が産んだ子孫をこの島に住まわせた。 この島は豊かな平原にめぐまれ、海岸から島の中央に向かっておよそ50スタディオン(9キロメートル)の位置に、あまり高くないひとつの山があった。ポセイドンはこの山に囲いをめぐらし、大小さまざまな環状の人工水路を設けた。 陸の環状ベルトは2つあり、海水の環状水路は3つあった。間隔はみな等しい。したがって中心部の神殿または政庁は、丸い輪のようになった2層の環状陸地帯でかこまれていたことになる。 ポセイドンには5組の双生児が生まれ、長男がアトラントと名づけられたことから、この大陸はアトランティスと呼ばれるようになったのである。他の子どもたちも周辺の島じまをもらい、強大な権力をエジプトまでもおよばした。 アトラントの子孫は、莫大な財宝をたくわえて豪勢な生活をした。物資の多くは、外国から輸入されたが、生活必需品は島で生産された。いまは名前しか知られていないが、島のなかだけでしか採れないオリハルコンという鉱物があったという。 動物の種類も数多く、とりわけゾウがたくさんいた。植物も豊かで、果実、野菜などが豊富に生産されていた。 ■ すばらしい王宮 首都建設の土木工事も目を見はるばかりだった。首都をかこむ環状の水路には橋がかけられ、王宮への出入道がつくられた。また港の入口は拡張され、大きな船も楽々と入港できた。 中心部の王宮がある丸い島は石壁でかこまれて、外敵の侵入を防ぎ、水路にかかる橋には見はり用の塔と門が建てられた。建物は、白、黒、赤などの色のついた石で造られており、通る人びとの目をひきつけた。 いちばん外側の環状の陸地には石壁がはりめぐらされていた。これは銅を接着剤として使い、壁の内側には銀を含む錫が張られていた。中心部の建造物の壁は、オリハルコンでおおわれ、火のような輝きを放っていたという。 王宮の内部には、ポセイドンとその妻、クレイトーの神殿があった。神殿の周囲は黄金の囲いがはりめぐらされ、人は近づくことができない。そして、毎年10か所の領地から、季節に応じたいけにえが、10人の王子のひとりひとりに捧げられた。
■ 金、銀、オリハルコンの装飾 神殿の表面には銀が張ってあり、ヘリには黄金の板がかぶせてあった。天井の主要部分は象牙で作られ、装飾には金、銀、オリハルコンが使われていた。また、壁、円柱、床は、すべてオリハルコンでおおわれていた。祭壇には、戦車に乗ったポセイドンの黄金の神像が立っていた。ポセイドンが乗る戦車を引くのは、6頭の羽のはえた馬であり、その周囲にはイルカに乗った100人の従者がつき従っていた。 環状の陸地帯には、ほかにも神々をまつる神殿がたくさんあった。花園もあれば、男や馬を訓練する訓練所もたくさんあった。最大の島の中央には、幅1スタディオン(180メートル)もある大きな競馬場があり、その両側には衛兵の兵舎もあった。港は3つあり上陸して内陸部に入ると、島全体をかこむ防壁があった。この地域には多くの家が密集しており、水路や港には商人が群がり、その叫び声や騒音のために、昼となく夜となく喧騒にあふれていた。 また、アトランティス大陸全土には、温泉がたくさん湧き出していたので、住民は大いに利用した。彼らは、温泉の水質に応じた樹木を栽培したり、貯水池をつくつて野外プールや冬期温泉浴場として利用したのである。 大陸の平原は、王政府によってよく開墾されていた。側溝が設けられ、雨水や下水は海に流れこむようになっていた。また、幅約30メートルの直線の水路が平地を貫通して縦横に走り、住民はこれらを利用して材木を都市へ輸送したり、他の産物を運んだりしたのである。
■ 強大な軍備、10人の王 アトランティスは、軍事力もけたはずれであった。全国を6万の地区に分割し、1地区の大きさは100スタディオン (18キロメートル)とし、各地区ごとにひとりの隊長を選出した。 軍の規則はこまかく規定されており、もし戦争になったときには、隊長は、1台の戦車の部品の6分の1(これを全地区からもちよると1万台の戦車ができる)、座席のない2頭立て馬車1台、それにつく軽武装兵1名、その戦士につく御者1名、2頭の馬のための重武装兵2名、射弓兵と投石兵各2名、軽武装の射石兵と投槍兵各3名、総計1200隻の軍船の乗組員となる水兵4名を準備することが要求された。 王は10名いたが、それぞれ自分の領地で、住民と大部分の法律を支配し、欲するままに罪人を死刑にしていた。 島の中央のポセイドン神殿のオリハルコンの柱には、先祖たちが残した法律や、銘辞で伝えられたポセイドンの神命によって、王たちの相互関係が規定されていた。 それによると王たちは、5、6年ごとに集合し、共通の問題を審議したり、過去について調べては裁判を行った。裁判は、およそ次のような手順で行われた。まず裁判がはじまる前に、王たちは狩場へ行って水牛を捕え、これを神殿の柱まで引っばってくる。そして銘辞の上の方で牛をいけにえとし て刺し殺した。 次に、美しい濃紺の服を着て、夜半にいけにえの炎を前にして、地面に坐り、裁かれる者について判決を下す。決定された判決は、夜明けとともに黄金の円板に記入し、外套とともに神殿に納めるのである。 裁判の基礎となる法律のなかでも、もっとも重要なものは、次のような法律である。つまり、各王は武器をもって互いに敵対しないこと、いずれかの都市でだれかが国家の滅亡をはかったときは、すべての王が結束して、王家を救援すること、戦争やその他の計画は各王が共同して決定し、アトラス一門に最高指揮をゆだねること、王は10名の王のうち半数以上の賛成が得られない場合には、王の兄弟の誰をも死刑にしてはいけないこと、などである。 ■ 真実を伝えた話だった? エジプトの老神官がソロンに語った話は、以上のように、じつにくわしくアトランティスの町の様子を教えてくれる。いくら古い話とはいえ、これほど細にわたった描写が、たんなる伝説とは思えない。とくにアテナイでも随一といわれた賢者ソロンが、作り話と事実を混同するはずがない。考えれば考えるほど、アトランティスの存在は事実であったとしか思えなくなってくる。 しかし、多くの疑問点があるのもたしかだ。ひとつはサイスの老神官が、この話をどのようにして伝え聞いたのかということ。そしてもうひとつは、プラトンがいかなる意図でアトランティスの物語を書いたのかという点だ。前に述べたようにこの話(『クリティアス』)は途中で中断されている。その中断の箇所は、ちょうどアトランティスが堕落しつつあり、神々が彼らに懲らしめを与えようと考える場面である。この最後の一節を次に書き出してみよう。 「神々の神、掟をつかさどるゼウスは、このようなありさまをさだかに観る力をもっておられたので、このすぐれた血をひく者たちが世にも哀れな姿となっているのに御心をいためた。そして、彼らが懲らしめを受けてもっとましな姿になるように、罰を与えようとお考えになった。 そこでゼウスは、神々のもっとも尊敬する住い、全宇宙の中心に位置を占め、世に生ずるすべてを照覧したもうあの住いへと、神々を残らずお集めになり、神々が集まって来られると、申された……」(以下、中断) はたしてゼウスは何をいおうとしたのか? プラトンはなぜこの作品を中断したのか? 謎は深まるばかりである。 ■ 謎多きアトランティスゆえに研究者は魅せられる "眠れる予言者"といわれる今世紀最大の予言者、エドガー、・ケイシーのリーディングによれば、アトランティス帝国には現代文明をしのぐほど高度の科学文明が発達しており、飛行機や潜水艦はもとより、核兵器まで保有していたという。しかしながら、プラトンの記述を見るかぎり、謎の金属オリハルコンは別にして、その他の面ではヨーロッパ中世の暮らしと大差はないように思われる。建築物は石造、馬を使った戦車や投石兵、投槍兵など、現代の戦争とはほど遠い原始的な装備である。これは、いったいいかなることを意味しているのだろうか。 しかし、それだけ謎多きアトランティスだからこそ、今日においてもなお多くの研究者があとを絶たないのである。その名をざっとあげただけでも、ストラボン、ブロクル、クーロゾ7、ラエルティウス、テイラー、ピロニスティウス、ヘルミップ、プアッソン、ハルキジアス、ゾヘル、カルポ7、プリタース、ぺッターソン、ロンジン、ポリフィリアス、ヤンブリキウス、プロクレス、クラントリウス、アンドレーエヴァ、ジンク、チャールズ・バーリッツ、ジェームズ・メイヴァー、オットー・ムーク、イグネーシャス・ドネリー、その他にも古今の研究者をいちいち教えあげていたらきりがない。アトランティスそのものの謎はいまだに解き明かされなくても、こうした人びとの長年の努力は、学問、とくに地理学、地質学、海洋学上の大きな成果をもたらすことになったのである。 それはさておき、次にわれわれはアトランティスをめぐる尽きることのない論争の数々を見ていくことにしよう。
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