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 空飛ぶ円盤の秘密   T.ベサラム/久保田八郎訳

第10章 クラリオンの結婚式 昭和42年発行 高文社版より

1952年10月2日木曜日、円盤はまたもやモルモン台地に姿を現わした。9度目である。もう私はクラリオン人たちに会って話をするのを心待ちするようになっていた。着陸はいつも夜間に行なわれるのだが、日時は一定していない。円盤が近づいて降下姿勢をとるまで私には何の予感もないのである。

彼らはいつでも群集に見られぬよう気をつけているらしい。むしろそこにいるのは私だけということを確かめてからといってもいいくらいだ。換言すれば、彼らのタイミングは全く見事なものである。しかし私としてはまさに逆であった。私は毎回、数人、いやー人でもよいから他の誰かが現場に居あわせて、証人になってくれればよいがと思っているのだが、残念なことにいつも期待はずれになるのである。あの小人たちがそんなふうに計画するのか、それとも単なる偶然なのか、私にはわからない。私が知っているのは、彼らは明らかに予定された時間と場所に音もなく不意に現われるということだけである。

彼らは私と話し合うときものどかなもので、興奮したり不安げな素振りを示したりすることはない。何事にも干渉するようなこともなく、私としても心中の恐怖は跡方もなく消え去るし、総体に親しみやすくて、また彼らも私と仲良くしたがっているようだった。

私は彼らをもの珍らしく観察しながら、機会あるごとに彼らの遊星や家庭、それに円盤などについて質問した。その答の一部は読者もお読みになった通りである。

離陸は常に整然たるもので、大声で叫んだり、鐘を鳴らしたりするような騒ぎはない。その正確で静かな出発を見ていると、まるで乗員の一人一人が何か鍵のようなものでも持っていて、予定の時刻に一斉にそれを廻すことによって、初めて大型機が動き出すのではないかというような感じさえ受けるほどである。

8回目と今回の9度目の訪問の場所はともに、7度目の着陸地点から数ヤードも離れていない場所で行なわれた。降下して来てもかすかな音もしないし、成層圏の彼方、遥かな高空を飛んでいる問に発見しない艇り、火球や流星の光のようにも見えない。

この9度目の訪問で内部に足を踏み入れたとき、機長を一目見て、一体これは以前の機長と同一人なのだろうかと私は思った。というのは、アウラ・レインズ機長は今までに見慣れていた制服とは違う服装をしていたからである。今夜の彼女はライト・グレーのズボンをはいて、まことに小粋な姿である。まるで描いたようにピッタリしたそのズボンは、均斉のとれた彼女の小さな肢体をほどよく引立たせていた。

私は彼女に、近頃では大型機の着陸が待遠しくて仕方がない、あなたのお言葉はお会いするたびに簡単に書きとめておいたノートを見ればみな思い出せるが、別に、ほとんどおっしゃった言葉通りに記しておいたなどと話し、さらにオーヴァ−トンの 「砂漠荘」で聞いた小話を一つ二つ語った。これはべつにいかがわしい内容のものではなく、ただの笑い話である。

彼女は云った。「私たちは定期的に地球へ来ますけど、いつ来ても楽しいわ。地球の人たちが上機嫌に笑っているのは私たちも好きなのよ」 

地球人が愉快に暮しているとは新発見だったと彼女は云う。こんなに苦労や困難な問題を抱え込んでいては、地球人はとても冗談を云ったり笑ったりする余裕はないだろうと思っていたのである。クラリオン人も品のよい冗談は好きで、よく笑うそうである。

また彼女は、クラリオンでは誰も急いだり慌てたりする者はないと話した。地球ではどうしてこんなに何もかもあわただしいのだろうかと彼らは不思議がっているらしい。アウラに云わせれば、人間が気違いのようにあちこちと馳けまわっている光景は、地球上どこでも同じだそうである。

彼女らの訪問は夜間に限られているのに、どうしてそんなことがわかるのかと思われる方があるかもしれないが、それはすなわち、彼らがどこか安全な場所に円盤を隠しておいて、気づかれぬようにそっと各国の大都会の人ごみの中にまぎれ込み、さまざまな地球人の生活を観察していることを示すものであろう。どうもそれにちがいないと思う。というのは、私は二度も機長が円盤を離れて街にいるのを見たと固く信じているからである。

しばらくそんな話をしたあとでアウラが云った。「この前お目にかかってから私は結婚式に出席しましたのよ。お客が何百人も集まりました。他の遊星から来た人もありましたわ。これまでにあなたがごらんになったどんな式よりも盛大なものでした」 

なるほど彼女の云う通りである。私が列席した結婚式は数えるほどしかないし、それも皆そんなに手のこんだものではなかったからだ。

米国の7月4日の独立記念日の式典と比較すればよくわかるだろうと彼女は云う。式の終ったあと、皆はダンスをし、贈物を差出して、新夫婦に祝の言葉を述べに行ったが、お祝にはファッション・ショウや美人パレードまで催されたと語った。彼女は以前にも、クラリオン人の生活も地球人の生活とよく似ていると語ってくれたことがあったが、この結婚式の詰もそれを証拠だてるように思われた。彼女はさらにくわしい家系図を見せてくれて、結婚式には老若男女あらゆる人が列席するのだと説明した。

例の大スターと外国の大公の婚礼に似ているなと私は考えたが、思いなおして口には出さなかった。クラリオンの結婚式はそれよりもずっと範囲の広い、大衆のお祭のように感じたからである。

そんなに盛大な婚礼は地球の人たちももっとくわしく知りたがるにちがいないと云うと、アウラは次のように答えた。

「私が申し上げたとおりをお話しになれば、どんなに疑い深い人でも、私たちがほんとうに楽しく暮していることを理解することでしょう。クラリオンで何か行事のあるときには、一家総出でそれに参加するのですわ」

家内にも聞かせてやりたいから、もっとくわしくその婚礼の話をして下さいと私はアウラに頼んだ。他の婦人たちと同じく、メリーも婦人服や結婚式には大いに興味をもっている。

アウラの説明は次の通りである。

「披露宴は背後に海を控えた古城の庭園で行われたのです。お城は立派な大理石づくりで、異国風な森があります。花嫁は美しい少女、花婿は水道技師の息子の美青年でした。新夫婦の家族の人たちや多勢の友人たちが、いろいろな遊星から集まって来ました。古くからの友人たちもみなこの美しい夫婦に心からお祝を述べに来て、そこでみんなは一緒に楽しいひとときを過しました。

たくさんの贈物が誇らかに差出されました。本当に宇宙の粋とでも云いたいものばかりでしたわ。その中には地球に持って来たら各国の王室の財産を集めたほどのねうちのあるものさえまじっていました。

どこの遊星でもそうですが、花嫁は自繻子とレースの美しいガウンをまとい、長いヴェールを後に引いて、香のよい花を集めた冠をかぶっていました。二人の宣誓のとき、私は花嫁の傍に立って、誇りと祝福の気持で一ばいでした。

乗員もみな招待されていましたし、新郎の付添に選ばれた者もいました。ちょうどお国の独立記念日のように大勢の人が集まって喝采していました。花嫁とその友人の着ていたものはひとつの流行になったくらいです。彼女の衣裳はまばゆいばかりで、よく調和のとれたものでした。お天気もすばらしかったのよ。誰もが夜明けまで踊りつづけました。気がつくと太陽はもう昇っていて、新夫婦の姿は見えませんでしたわ。

二人はきれいな町に新家庭をもって生活を始めることになっています。家のそとの仕事はすべて夫が引受け、家庭の中は妻が受持つのです」 

式のときにあなたが着た衣裳の話をしてくれませんか、メリーもきっと知りたがるでしょうから、と私は聞いてみた。

「私のは地味なものでしたわ。靴、帽子、ハンドバッグ、アクセサリーなどはガウンと同色の肉桂色がかった茶色でした。

お客が帰るときには、女の人はずらりと並び、男の人たちはその手に接吻しました。女の人たちはダイヤモンドの指輪をはめていました。黄金の腕輪をしている人もたくさんありました。あたしのも立派なものよ。銀色で青い象嵌がしてあるのです。

これだけお話しすれば、わたしたちが楽しく暮していることが疑い深い人にもわかるでしょう」

私もうなずいて同感の意を表わした。

「さあ、ではまた来ますわ、今までと同じようにね。クラリオンへのご招待はたしかにお約束しておきます」と彼女は云った。

10月12日、円盤は10度目の訪問をした。7月20日の最初の訪問以来、私がまだ機長の名前も国籍も知らぬころから、着陸するたびごとに、彼女は私を宇宙旅行に連れて行くという意味のことを繰返し云っている。訪問がたび重なるにつれてこの約束は具体化してきたのだと私は今でも信じている。最初のときにアウラ機長がこう云ったことがある。

「いつかはおわかりでしょうが、私たちには困難ということはないのですよ」私はこの言葉を何度も考えてみたがこれは脅迫なのか約束なのか最初のころはわからなかった。しかし第一回の会見後も相変らず私が無事であることを考えると、この人たちは他人を脅すようなことはしないという結論に達したのである。だからこれは卒直な言葉なのであって、アウラは将来私たちを連れて行くつもりで云ったのだろう。だが、彼女の云う「近いうちに」ということと、私の考える「近いうち」とが果して同じ頃なのかどうかはまだわからない。

私がクラリオンだけでなく、ひょっとすると他の遊星にも案内してもらえるらしいことは、着陸のたびごとに彼女がほのめかしている。むろん私は待ちこがれていた。それは読者にもわかっていただけるだろう。

この10度目の会見で彼女は云った。「今夜来たのは特別な訪問なのです。いよいよ近日中に、あなたとお友達を5人、クラリオンへお連れする手続きを行なうことに確定したのよ。お気に召すかしら?」 

私は答えた。「むろんですよ。でも何か苦しいことがあるでしょうか。呼吸はどうでしょう。特殊な装置が必要なのじゃないですか?」 

「いいえ、全然必要ありません。着ていらっしゃるもの以外は皆わたしたちが仕度します。同乗なさるときは着換えひとそろいに丈夫なクツを一足、それだけ持っていらっしゃい。食物も飲物も要りません。それから、カメラはだめよ。必要な品は全部準備いたします。クラリオンでは特別仕立の乗物を提供しますわ。クラリオンをすっかり見物していただくためにね」

どうしてそんなにカメラを警戒するのだろうかと私は不審に思った。多分彼らも地球の官憲と同じように、敵に明確な資料となる写真を振られると困るのかもしれない。そんなことを考えていると、「特に宇宙旅行に興味をもっているお友達のお心当りはあって?」と彼女がたずねた。

そんな旅行に出る勇気があるかどうかと私が聞いてみたのは二人だけだが、二人とも機会さえあれば喜んで行くと云っていた、と私は答えた。

べつに費用がかかるわけではないのだから、私が誘えば乗気になりそうな友人の名前を他に二、三あげてみた。ホワイティーがその一人、それにジョニーだ。二人の職業、住所、交際している期間など参考になりそうな事柄を話しておいた。

彼女は云った。「ではその方たちに連絡して、このことを知らせておいて下さいね。わたしたちが時間をきめたらすぐ出かけられるようにね。一週間もしくはご希望ならそれ以上もご滞在下さって結構ですわ。クラリオンにいらっしゃる間は私の家を宿舎にしましょう。わたしたちとしてはべつにむつかしい手続きはありません。どこへでもご案内しますし、あなた方が地球へ帰りたくなったり、または帰っていただかなければならないときは、わたしたちがお連れします。私たちはみな心から喜んであらゆる方法でおもてなししますわ」

それから私はもっと多くの友人の名前を挙げた。先ずジョン神父である。ネバダの砂漠に住む者なら一人残らず彼を知っているし、敬愛している。

彼女は云った。「一行の団長にジョン神父さんならすてきですわ、私たちも礼拝は必要だと思っていますから。きっと行きたいとおっしゃることでしょう。町では有名な方なのね。僧服でいらっしゃるなら、多分私たちも一、二回ミサをお願いすることになるかもしれませんわ。讃美歌や説教で乗員をお導き願うことにもなるでしょう。それからボブさんですか。ながいあいだのお友達とおっしゃったわね。その方もいらっしゃるかしら? うかがってみて下さいね」 

続いてハングの名前を口に出した。すると、「その方もお誘いしなさい。いらっしゃるでしょうね。それからホワイティーさんは、あなたの親方でしたわね。もしいらっしゃらなければ大変な損ですわ。それと、いつも笑っているアイルランド人のジョニーさん、この方もお友達でしたわね。その方がいらっしゃるとちょうど満員になりますわ」

ボブは機械工でいつも工具を持ちまわっています、と私は説明した。

「そんな物は家において来なければだめよ。見学にいらっしゃるんですから」「ハンクは建築屋です」「お仕事は留守にしてもかまわないのでしょうね」「ホワイティーは岩石や砂を扱う作業場をつくるのが専門です」「クラリオンへおいでになれば、何か名案をお教えできるかもしれませんわ」「ジョニーはトンネル工事のモーター係りです」「クラリオン訪問は差支えないでしょうね。それから、トゥルーマン、いままでのお話だと、クラリオンにいらしゃったら、あなたは先ず第一にスクェアダンスがごらんになりたいようね。」 彼女は明るく笑った。私もうなずいた。

「ごらんになりたいものも、なさりたいことも沢山あるでしょうから、みなさんには一人一人にお揃いのジープを使っていただきましょう。一週間でもそれ以上でも滞在していただいて、いろいろ見物なさったり休息したり遊んだりして下さいね。その間私の家はみなさんのものです。索晴しいところへご案内します。一番景色のいい場所は荒地の近くです。家事はわたしと女中とでいたしますからご心配はいりません。子供たちもめいめい玩具を持って、みなさんのために分列行進をすることでしょう。地球人のようないたずらはしませんわ。クラリオンの子供たもは武器で殺し合うような遊びはいたしません。

食事をしたり眠ったりするのも楽しいことでしょう。食卓には私の得意な料理を並べることにしましょうね。お話ししたことがあると思いますけど、気候は全く温和な所ですから、お望みなら裸のままでお休みになっても大丈夫なくらいよ。毎晩ぐっすりとお休みになれますわ。クラリオンの寝台は特別上等ですから、きっと心も体も休まることでしょう。ご滞在を感謝する意味で、地球にお帰りのときには送別会を開きましょう。ご命令しだいいつでも出発できるように、この司令機を仕度しておきますから。

往復ともそれぞれ二日ずつかかります。ですからクラリオン出発後二日目にはもうお宅でくつろいでいらっしゃるでしょう。いまおっしゃったお友達のみなさんにはご連絡をお願いします。私たちがご招待するということと、乗員と同じようにおもてなしをするということをお伝え下さい。その方たちも仕事を片づけて準備なさっていらっしゃるようにね。クラリオンをごらんになりたかったら仕事の整理はすぐできるでしょう。もう一度申し上げますが、何も持っていらっしゃる必要はありません。カメラを隠して乗らないことよ。わたしたちはこれで帰りますけど、万事うまくいったらまたまいります。ではドアーを閉めます。おやすみなさい」

その翌晩、たしか大雨ののちだったと思うが、グレンデールの東北にある丘の裾を通っている送電線の近くにアウラは小さな閃光信号を投下した。邪魔が入らなかったらそこにきめるからと、あらかじめ約束してあった場所である。投下されたとき、私はその道路をドライヴしていたが、到着してみるともう大型機は見えなかった。(その夜私を尾行して来たオーヴァ−トンの人たちに、この個所を読んでいただきたい。誰のことを云っているかは、本人ならおわかりのことと思う)だが現場にはかなりかさばった直径1フィート、長さ2フィートくらいの荷物が落ちていた。青白い月光の下でも充分に私の注意を惹くほどの大きさで、カープ・エルジン街道のまんなかに横たわっていた。この道路は送電線からハイウェイの方へ200ヤードばかりの位置にあり、狭くてひどい道である。

トラックを停めて道路へ降り、包をかつぎ上げてよく見えるようにヘッドライトの前に置くと、次のように記してあるのがわかった。

トゥルーマンヘ  アウラより

少し胸騒ぎがしたが、何度もひっくり返して調べてみた。何が入っているのだろう。肉屋の包装紙のようなもので荷造りしてある。包をトラックに運び入れてから屋根によじのぼり、円盤が見えはしないかとあたりを眺めまわした。もし付近にいるのならば気がつけばいいがと思って懐中電燈をいく度も振ったけれども、空中にも地上にも見えないようである。

そのとき道路を一台の自動車が尾行して来るのに気がついた。前に述べたような事情もあるので、私は怖ろしくなって屋根から跳びおりると、運転台に坐り、作業場の方へ8マイルほどスッ飛ばして逃げ帰った。

トラックがその車の傍を走り抜けたとき、なかの男が運転手に怒鳴った。

「あの野郎だ!よし、あともどりして奴を追っかけろ!」

私にはわからないが、アウラもその自動車が私のトラックを追跡していたのを何かの方法で見たにちがいない。私がこの連中から危害を加えられてはいけないと思って、多分それで地上に留まらなかったのだろう。

危険を脱しようとして私は速力を増しながらライトを消した。円盤に手が出せない彼らは私をやっつけるつもりだったのかもしれない。だが私のそんな気持を彼らはもちろん知らないはずだ。

後になってその包を開いてみると、閃光信号筒が2本、それに使用法を英文でタイプした紙片が入っていた。ありふれた鉄道用の信号筒そっくりだが、外側の包装紙は黒色の艶のある紙で、写真フィルムの包装に使用する紙によく似ていた。信号筒は鉄道用のものよりいくぶん重かった。使用する機会が来るまで細心の注意を払ったことは勿論である。仕事の都合で間もなくネバダからアリゾナへ移らねばならぬ私に、アウラがそれを落してくれたことは大変有難かった。

第11章 円盤の秘密へ続く


 空飛ぶ円盤の秘密   T.ベサラム/久保田八郎訳

第10章 クラリオンの結婚式 昭和42年発行 高文社版より

1952年10月2日木曜日、円盤はまたもやモルモン台地に姿を現わした。9度目である。もう私はクラリオン人たちに会って話をするのを心待ちするようになっていた。着陸はいつも夜間に行なわれるのだが、日時は一定していない。円盤が近づいて降下姿勢をとるまで私には何の予感もないのである。

彼らはいつでも群集に見られぬよう気をつけているらしい。むしろそこにいるのは私だけということを確かめてからといってもいいくらいだ。換言すれば、彼らのタイミングは全く見事なものである。しかし私としてはまさに逆であった。私は毎回、数人、いやー人でもよいから他の誰かが現場に居あわせて、証人になってくれればよいがと思っているのだが、残念なことにいつも期待はずれになるのである。あの小人たちがそんなふうに計画するのか、それとも単なる偶然なのか、私にはわからない。私が知っているのは、彼らは明らかに予定された時間と場所に音もなく不意に現われるということだけである。

彼らは私と話し合うときものどかなもので、興奮したり不安げな素振りを示したりすることはない。何事にも干渉するようなこともなく、私としても心中の恐怖は跡方もなく消え去るし、総体に親しみやすくて、また彼らも私と仲良くしたがっているようだった。

私は彼らをもの珍らしく観察しながら、機会あるごとに彼らの遊星や家庭、それに円盤などについて質問した。その答の一部は読者もお読みになった通りである。

離陸は常に整然たるもので、大声で叫んだり、鐘を鳴らしたりするような騒ぎはない。その正確で静かな出発を見ていると、まるで乗員の一人一人が何か鍵のようなものでも持っていて、予定の時刻に一斉にそれを廻すことによって、初めて大型機が動き出すのではないかというような感じさえ受けるほどである。

8回目と今回の9度目の訪問の場所はともに、7度目の着陸地点から数ヤードも離れていない場所で行なわれた。降下して来てもかすかな音もしないし、成層圏の彼方、遥かな高空を飛んでいる問に発見しない艇り、火球や流星の光のようにも見えない。

この9度目の訪問で内部に足を踏み入れたとき、機長を一目見て、一体これは以前の機長と同一人なのだろうかと私は思った。というのは、アウラ・レインズ機長は今までに見慣れていた制服とは違う服装をしていたからである。今夜の彼女はライト・グレーのズボンをはいて、まことに小粋な姿である。まるで描いたようにピッタリしたそのズボンは、均斉のとれた彼女の小さな肢体をほどよく引立たせていた。

私は彼女に、近頃では大型機の着陸が待遠しくて仕方がない、あなたのお言葉はお会いするたびに簡単に書きとめておいたノートを見ればみな思い出せるが、別に、ほとんどおっしゃった言葉通りに記しておいたなどと話し、さらにオーヴァ−トンの 「砂漠荘」で聞いた小話を一つ二つ語った。これはべつにいかがわしい内容のものではなく、ただの笑い話である。

彼女は云った。「私たちは定期的に地球へ来ますけど、いつ来ても楽しいわ。地球の人たちが上機嫌に笑っているのは私たちも好きなのよ」 

地球人が愉快に暮しているとは新発見だったと彼女は云う。こんなに苦労や困難な問題を抱え込んでいては、地球人はとても冗談を云ったり笑ったりする余裕はないだろうと思っていたのである。クラリオン人も品のよい冗談は好きで、よく笑うそうである。

また彼女は、クラリオンでは誰も急いだり慌てたりする者はないと話した。地球ではどうしてこんなに何もかもあわただしいのだろうかと彼らは不思議がっているらしい。アウラに云わせれば、人間が気違いのようにあちこちと馳けまわっている光景は、地球上どこでも同じだそうである。

彼女らの訪問は夜間に限られているのに、どうしてそんなことがわかるのかと思われる方があるかもしれないが、それはすなわち、彼らがどこか安全な場所に円盤を隠しておいて、気づかれぬようにそっと各国の大都会の人ごみの中にまぎれ込み、さまざまな地球人の生活を観察していることを示すものであろう。どうもそれにちがいないと思う。というのは、私は二度も機長が円盤を離れて街にいるのを見たと固く信じているからである。

しばらくそんな話をしたあとでアウラが云った。「この前お目にかかってから私は結婚式に出席しましたのよ。お客が何百人も集まりました。他の遊星から来た人もありましたわ。これまでにあなたがごらんになったどんな式よりも盛大なものでした」 

なるほど彼女の云う通りである。私が列席した結婚式は数えるほどしかないし、それも皆そんなに手のこんだものではなかったからだ。

米国の7月4日の独立記念日の式典と比較すればよくわかるだろうと彼女は云う。式の終ったあと、皆はダンスをし、贈物を差出して、新夫婦に祝の言葉を述べに行ったが、お祝にはファッション・ショウや美人パレードまで催されたと語った。彼女は以前にも、クラリオン人の生活も地球人の生活とよく似ていると語ってくれたことがあったが、この結婚式の詰もそれを証拠だてるように思われた。彼女はさらにくわしい家系図を見せてくれて、結婚式には老若男女あらゆる人が列席するのだと説明した。

例の大スターと外国の大公の婚礼に似ているなと私は考えたが、思いなおして口には出さなかった。クラリオンの結婚式はそれよりもずっと範囲の広い、大衆のお祭のように感じたからである。

そんなに盛大な婚礼は地球の人たちももっとくわしく知りたがるにちがいないと云うと、アウラは次のように答えた。

「私が申し上げたとおりをお話しになれば、どんなに疑い深い人でも、私たちがほんとうに楽しく暮していることを理解することでしょう。クラリオンで何か行事のあるときには、一家総出でそれに参加するのですわ」

家内にも聞かせてやりたいから、もっとくわしくその婚礼の話をして下さいと私はアウラに頼んだ。他の婦人たちと同じく、メリーも婦人服や結婚式には大いに興味をもっている。

アウラの説明は次の通りである。

「披露宴は背後に海を控えた古城の庭園で行われたのです。お城は立派な大理石づくりで、異国風な森があります。花嫁は美しい少女、花婿は水道技師の息子の美青年でした。新夫婦の家族の人たちや多勢の友人たちが、いろいろな遊星から集まって来ました。古くからの友人たちもみなこの美しい夫婦に心からお祝を述べに来て、そこでみんなは一緒に楽しいひとときを過しました。

たくさんの贈物が誇らかに差出されました。本当に宇宙の粋とでも云いたいものばかりでしたわ。その中には地球に持って来たら各国の王室の財産を集めたほどのねうちのあるものさえまじっていました。

どこの遊星でもそうですが、花嫁は自繻子とレースの美しいガウンをまとい、長いヴェールを後に引いて、香のよい花を集めた冠をかぶっていました。二人の宣誓のとき、私は花嫁の傍に立って、誇りと祝福の気持で一ばいでした。

乗員もみな招待されていましたし、新郎の付添に選ばれた者もいました。ちょうどお国の独立記念日のように大勢の人が集まって喝采していました。花嫁とその友人の着ていたものはひとつの流行になったくらいです。彼女の衣裳はまばゆいばかりで、よく調和のとれたものでした。お天気もすばらしかったのよ。誰もが夜明けまで踊りつづけました。気がつくと太陽はもう昇っていて、新夫婦の姿は見えませんでしたわ。

二人はきれいな町に新家庭をもって生活を始めることになっています。家のそとの仕事はすべて夫が引受け、家庭の中は妻が受持つのです」 

式のときにあなたが着た衣裳の話をしてくれませんか、メリーもきっと知りたがるでしょうから、と私は聞いてみた。

「私のは地味なものでしたわ。靴、帽子、ハンドバッグ、アクセサリーなどはガウンと同色の肉桂色がかった茶色でした。

お客が帰るときには、女の人はずらりと並び、男の人たちはその手に接吻しました。女の人たちはダイヤモンドの指輪をはめていました。黄金の腕輪をしている人もたくさんありました。あたしのも立派なものよ。銀色で青い象嵌がしてあるのです。

これだけお話しすれば、わたしたちが楽しく暮していることが疑い深い人にもわかるでしょう」

私もうなずいて同感の意を表わした。

「さあ、ではまた来ますわ、今までと同じようにね。クラリオンへのご招待はたしかにお約束しておきます」と彼女は云った。

10月12日、円盤は10度目の訪問をした。7月20日の最初の訪問以来、私がまだ機長の名前も国籍も知らぬころから、着陸するたびごとに、彼女は私を宇宙旅行に連れて行くという意味のことを繰返し云っている。訪問がたび重なるにつれてこの約束は具体化してきたのだと私は今でも信じている。最初のときにアウラ機長がこう云ったことがある。

「いつかはおわかりでしょうが、私たちには困難ということはないのですよ」私はこの言葉を何度も考えてみたがこれは脅迫なのか約束なのか最初のころはわからなかった。しかし第一回の会見後も相変らず私が無事であることを考えると、この人たちは他人を脅すようなことはしないという結論に達したのである。だからこれは卒直な言葉なのであって、アウラは将来私たちを連れて行くつもりで云ったのだろう。だが、彼女の云う「近いうちに」ということと、私の考える「近いうち」とが果して同じ頃なのかどうかはまだわからない。

私がクラリオンだけでなく、ひょっとすると他の遊星にも案内してもらえるらしいことは、着陸のたびごとに彼女がほのめかしている。むろん私は待ちこがれていた。それは読者にもわかっていただけるだろう。

この10度目の会見で彼女は云った。「今夜来たのは特別な訪問なのです。いよいよ近日中に、あなたとお友達を5人、クラリオンへお連れする手続きを行なうことに確定したのよ。お気に召すかしら?」 

私は答えた。「むろんですよ。でも何か苦しいことがあるでしょうか。呼吸はどうでしょう。特殊な装置が必要なのじゃないですか?」 

「いいえ、全然必要ありません。着ていらっしゃるもの以外は皆わたしたちが仕度します。同乗なさるときは着換えひとそろいに丈夫なクツを一足、それだけ持っていらっしゃい。食物も飲物も要りません。それから、カメラはだめよ。必要な品は全部準備いたします。クラリオンでは特別仕立の乗物を提供しますわ。クラリオンをすっかり見物していただくためにね」

どうしてそんなにカメラを警戒するのだろうかと私は不審に思った。多分彼らも地球の官憲と同じように、敵に明確な資料となる写真を振られると困るのかもしれない。そんなことを考えていると、「特に宇宙旅行に興味をもっているお友達のお心当りはあって?」と彼女がたずねた。

そんな旅行に出る勇気があるかどうかと私が聞いてみたのは二人だけだが、二人とも機会さえあれば喜んで行くと云っていた、と私は答えた。

べつに費用がかかるわけではないのだから、私が誘えば乗気になりそうな友人の名前を他に二、三あげてみた。ホワイティーがその一人、それにジョニーだ。二人の職業、住所、交際している期間など参考になりそうな事柄を話しておいた。

彼女は云った。「ではその方たちに連絡して、このことを知らせておいて下さいね。わたしたちが時間をきめたらすぐ出かけられるようにね。一週間もしくはご希望ならそれ以上もご滞在下さって結構ですわ。クラリオンにいらっしゃる間は私の家を宿舎にしましょう。わたしたちとしてはべつにむつかしい手続きはありません。どこへでもご案内しますし、あなた方が地球へ帰りたくなったり、または帰っていただかなければならないときは、わたしたちがお連れします。私たちはみな心から喜んであらゆる方法でおもてなししますわ」

それから私はもっと多くの友人の名前を挙げた。先ずジョン神父である。ネバダの砂漠に住む者なら一人残らず彼を知っているし、敬愛している。

彼女は云った。「一行の団長にジョン神父さんならすてきですわ、私たちも礼拝は必要だと思っていますから。きっと行きたいとおっしゃることでしょう。町では有名な方なのね。僧服でいらっしゃるなら、多分私たちも一、二回ミサをお願いすることになるかもしれませんわ。讃美歌や説教で乗員をお導き願うことにもなるでしょう。それからボブさんですか。ながいあいだのお友達とおっしゃったわね。その方もいらっしゃるかしら? うかがってみて下さいね」 

続いてハングの名前を口に出した。すると、「その方もお誘いしなさい。いらっしゃるでしょうね。それからホワイティーさんは、あなたの親方でしたわね。もしいらっしゃらなければ大変な損ですわ。それと、いつも笑っているアイルランド人のジョニーさん、この方もお友達でしたわね。その方がいらっしゃるとちょうど満員になりますわ」

ボブは機械工でいつも工具を持ちまわっています、と私は説明した。

「そんな物は家において来なければだめよ。見学にいらっしゃるんですから」「ハンクは建築屋です」「お仕事は留守にしてもかまわないのでしょうね」「ホワイティーは岩石や砂を扱う作業場をつくるのが専門です」「クラリオンへおいでになれば、何か名案をお教えできるかもしれませんわ」「ジョニーはトンネル工事のモーター係りです」「クラリオン訪問は差支えないでしょうね。それから、トゥルーマン、いままでのお話だと、クラリオンにいらしゃったら、あなたは先ず第一にスクェアダンスがごらんになりたいようね。」 彼女は明るく笑った。私もうなずいた。

「ごらんになりたいものも、なさりたいことも沢山あるでしょうから、みなさんには一人一人にお揃いのジープを使っていただきましょう。一週間でもそれ以上でも滞在していただいて、いろいろ見物なさったり休息したり遊んだりして下さいね。その間私の家はみなさんのものです。索晴しいところへご案内します。一番景色のいい場所は荒地の近くです。家事はわたしと女中とでいたしますからご心配はいりません。子供たちもめいめい玩具を持って、みなさんのために分列行進をすることでしょう。地球人のようないたずらはしませんわ。クラリオンの子供たもは武器で殺し合うような遊びはいたしません。

食事をしたり眠ったりするのも楽しいことでしょう。食卓には私の得意な料理を並べることにしましょうね。お話ししたことがあると思いますけど、気候は全く温和な所ですから、お望みなら裸のままでお休みになっても大丈夫なくらいよ。毎晩ぐっすりとお休みになれますわ。クラリオンの寝台は特別上等ですから、きっと心も体も休まることでしょう。ご滞在を感謝する意味で、地球にお帰りのときには送別会を開きましょう。ご命令しだいいつでも出発できるように、この司令機を仕度しておきますから。

往復ともそれぞれ二日ずつかかります。ですからクラリオン出発後二日目にはもうお宅でくつろいでいらっしゃるでしょう。いまおっしゃったお友達のみなさんにはご連絡をお願いします。私たちがご招待するということと、乗員と同じようにおもてなしをするということをお伝え下さい。その方たちも仕事を片づけて準備なさっていらっしゃるようにね。クラリオンをごらんになりたかったら仕事の整理はすぐできるでしょう。もう一度申し上げますが、何も持っていらっしゃる必要はありません。カメラを隠して乗らないことよ。わたしたちはこれで帰りますけど、万事うまくいったらまたまいります。ではドアーを閉めます。おやすみなさい」

その翌晩、たしか大雨ののちだったと思うが、グレンデールの東北にある丘の裾を通っている送電線の近くにアウラは小さな閃光信号を投下した。邪魔が入らなかったらそこにきめるからと、あらかじめ約束してあった場所である。投下されたとき、私はその道路をドライヴしていたが、到着してみるともう大型機は見えなかった。(その夜私を尾行して来たオーヴァ−トンの人たちに、この個所を読んでいただきたい。誰のことを云っているかは、本人ならおわかりのことと思う)だが現場にはかなりかさばった直径1フィート、長さ2フィートくらいの荷物が落ちていた。青白い月光の下でも充分に私の注意を惹くほどの大きさで、カープ・エルジン街道のまんなかに横たわっていた。この道路は送電線からハイウェイの方へ200ヤードばかりの位置にあり、狭くてひどい道である。

トラックを停めて道路へ降り、包をかつぎ上げてよく見えるようにヘッドライトの前に置くと、次のように記してあるのがわかった。

トゥルーマンヘ  アウラより

少し胸騒ぎがしたが、何度もひっくり返して調べてみた。何が入っているのだろう。肉屋の包装紙のようなもので荷造りしてある。包をトラックに運び入れてから屋根によじのぼり、円盤が見えはしないかとあたりを眺めまわした。もし付近にいるのならば気がつけばいいがと思って懐中電燈をいく度も振ったけれども、空中にも地上にも見えないようである。

そのとき道路を一台の自動車が尾行して来るのに気がついた。前に述べたような事情もあるので、私は怖ろしくなって屋根から跳びおりると、運転台に坐り、作業場の方へ8マイルほどスッ飛ばして逃げ帰った。

トラックがその車の傍を走り抜けたとき、なかの男が運転手に怒鳴った。

「あの野郎だ!よし、あともどりして奴を追っかけろ!」

私にはわからないが、アウラもその自動車が私のトラックを追跡していたのを何かの方法で見たにちがいない。私がこの連中から危害を加えられてはいけないと思って、多分それで地上に留まらなかったのだろう。

危険を脱しようとして私は速力を増しながらライトを消した。円盤に手が出せない彼らは私をやっつけるつもりだったのかもしれない。だが私のそんな気持を彼らはもちろん知らないはずだ。

後になってその包を開いてみると、閃光信号筒が2本、それに使用法を英文でタイプした紙片が入っていた。ありふれた鉄道用の信号筒そっくりだが、外側の包装紙は黒色の艶のある紙で、写真フィルムの包装に使用する紙によく似ていた。信号筒は鉄道用のものよりいくぶん重かった。使用する機会が来るまで細心の注意を払ったことは勿論である。仕事の都合で間もなくネバダからアリゾナへ移らねばならぬ私に、アウラがそれを落してくれたことは大変有難かった。

第11章 円盤の秘密へ続く

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