フォン・ブラウンの矛盾
アポロ宇宙船が月に到着したとき、時速9600キロメートル以下で飛行していたと、アポロ計画を取り上げた評論家たちは首尾一貫して報告した。これは宇宙船が時速3200キロメートルをわずかに超えるスピードで平衡点を通過した後である。だが筆者は宇宙船が月に到着したときに出していた速度を導き出したはずの評論家たちによる計算結果をまだ見たことはない。したがってこの情報はNASA (米航空宇宙局)が直接または間接的に流したと推測することは筋が通っている。そこで事実と数字とを調べてみると、ひどい矛盾が起こってくるのだ。
まずあげると、69592キロというう平衡点距離と、月の引力が地球の6分の1という説は、本書第2章と3章で説明したように矛盾しているのである。
1971年に書かれた『宇宙最前線』でヴュルナー・フォン・ブラウンは、アポロ8号が平衡点を通過するときと月に達したときの各速度を、それぞれ時速3520キロ、9120キロと述べている。同じ箇所で、月の引力は月から62240キロの地点で作用をし始めて、そこから宇宙船は再度スピードをあげ始めたとも言っている。平衡点から月へ行くときの速度の数学的計算をやってみると、時速9600キロ以下で進行する宇宙船が月へ到着できる唯一の可能性は、6分の1引力説が正しければの話になる。
もし6分の1説が正しいとすれば、平衡点は月から約54400キロとなり、62240キロとはならない。したがって宇宙船は地球を出発して月から約38400キロの位置に到達するまでは、ずっとスピードを減らし続けることななる。しかしこれは先にフォン・ブラウンが述べたことと一致しない。月の強い引力の影響があるからこそ、より大きな平衡点距離が存在するというのが正しいのか、それとも、より大きな平衡点距離があるというのは間違っていて、月にはやはり6分の1の引力しか存在しないというのか、このいずれかとなる。なぜヴュルナー・フォン・ブラウンはこんを矛盾する情報を出したのだろう。
飛行時間と平衡点との関係
月に到達するときの速度に関して、強い月の引力の影響を示す次のような情報がある。6分の1という月の引力は時速9600キロをやや下まわるスピードに宇宙船を加速するけれども、一方、64パーセントという月の引力ならば、最終速度をかなり高く引き上げるということなのだ。付録Cでは、最終速度は69592キロの平衡点距離でもって必要となる64パーセントの月の引力を応用して出してある。またこのことは平衡点における初速が時速3520キロであるのが正しいことを示している。こうなると最終速度は時速1600キロ以上となるのだ! 69592キロ平衡点で要求される速度とーそのゆえに月の引力は強いものとなるー時速9120キロの公称値との食い違いは時速6400キロ以上となる。
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▲アポロ11号写真より ©NASA |
軌道周回速度を論じる前に、平衡点距離が6400キロマークの付近にあることを明確に示す論拠を提示しておこう。
アポロ8号の月飛行のとき、この宇宙船はいわゆる平衡点として月から62240キロの位置に達した。時速3420キロで55時間39分を要したのである。68時間57分目にそれは時速9600キロ以下で飛んで月に到着したのである。したがってその距離は13時間18分でカバーできた。
ところが、もし平衡点が実際に月から38400キロであるとすれば、ぞの宇宙船の平均速度は時速約3905キロとなるはずで、月飛行は約9時間50分を要したにすぎないことななる。したがってNASAが出した時間は、より大きな平衡点距離を裏付けすることになり、これによって月の引力は強いことななるのである。
月の引力は地球の引力の64パーセント!
飛行時間を詳紳に分析してみると、さらに月の強い引力にたいする確証が出てくる。もし月が地球の表面引力の6分の1の引力をもつとすれば、アポロ8号宇宙船は38400キロの位置に到達するまでにスピードを落とし続けたことになる。そして平衡点で加速し始めて、月では時速約8864キロの最終速度に達したはずである。かりに月から62240キロの位置で時速3520キロで進行したとすれば、その飛行時間は16時間44分となるはずだ。ただしこれは6分の1引力と仮定してのことである。
これはNASA発表の13時間18分という時間と3時間以上の食い違いを示す。NASA発表の短い飛行時間にたいする唯一の説明は、宇宙船にもっと高い平均速度と最終速度を与えれば可能となる。
ここで月の引力は地球のそれの(6分の1ではなく)64パーセントであると仮定すれば、飛行時間は13時間47分と計算されることになり、NASA発表の13時間18分にきわめて近くなる。この分析によって確実にわかるのは、NASA発表の情報はそれ自体が矛盾しているということだ。その飛行時間と平衡点距離は月の強い引力を暗示しているのだが、しかるにNASAは月の弱い6分の1引力説を公表し続けているのだ。
もし月が地球の引力の6分の1しか持たないものならば、月の軌道を回る人工衛星または宇宙船は非常に低い軌道周回速度を持つことになるだろう。これは軌道周回速度が引力と相殺するからである。
もし引力が弱ければ軌道を回るのに必要を速度は低くなる。つまり落下する傾向が弱まるので、人工衛星は低速で軌道周回を続けることができるのである。これが6分の1の引力ならば、高度121キロで月の軌道を回る人工衛星は時速5848キロで飛ぶにすぎないことななる。
しかし月の引力が地球のそれの64パーセントならば、同じ高度の軌道周回速度は時速11460キロになるだろう。つまり公称値のほとんど2倍ななるのである。エンサイクロピーディア・ブリタニカの『宇宙探険』の項に、アポロ11号は時速8360キロで飛んで月に到着し、楕円軌道に入るのに時速5888キロに速度を落とす必要があったと述べてある。月の引力を6分の1とすれば、宇宙船はこんな低速ならば岩石のように落下してすぐに月面に撃突するだろう。
明白なのは、引力が強ければアポロ宇宙船にブレーキをかけて速度を落とし、周回軌道に乗るには、時速16000キロ以上から11460キロに減速するだけでよい。この軌道周回速度は宇宙船が2時間ごとに月を1周するかわりに1時間ごとに1周することを示している。
こうした軌道周回周期の知識は管制センターの職員に知られていたにちがいない。というのは、各軌道のある部分で、司令船が月の裏側を通過するときに、その司令船との通信がとだえるからである。この通信の途絶は各120分の軌道のうち50分間続いたという。付録Dには、速度と通信途絶時間が112キロの高度の軌道にもとづいて導き出されている。これが64パーセントの引力ならば通信途絶の時間は24分間にすぎない。
もし右の状況が発生したとすれば、大衆に情報を隠すためにかなり厳重を防御策が講じられたにちがいない。宇宙飛行士の活動をモニターする唯一の手段が管制センターを通すことにある限り、比較的少数の人々だけが実際にその状況に気づくだろう。NASAの多数の人々は依然としてツンボ桟敷におかれるだろう。そうだとすれば最も厳重な防御地域は管制センターということになり、しかも以下に示す情報がこのことを示しているのである。
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▲月面に降り立とうとするオルドリン。アポロ11号。©NASA |
のらりくらりのNASA
ジョン・ノーブル・ウィルフォードはニューヨーク・タイムズ紙にアポロ飛行について書いている。その著書『我々は月に到着する』の中で、彼はアポロ計画をかなり詳細に論じているが、これはNASAで働いた彼の体験にもとづいたものである。以下の情報は彼の著書から引用した。
グリソム、チャフィー、ホワイトの命を奪った火災について、彼はヒューストン有人宇宙航行センターがNASAへの電話でテープ録音について話すために身の毛のよだつような言葉を用いたと書いている (訳注=1967年1月27日、最初のアポロ有人宇宙船がケネディー字宙センターで火災を起こし、サターンIB打ち上げロケットの先端にあったアポロ船内にいた前記3名の飛行士が死亡した。火災原因は不明とされている)。
しかしNASA側はそのテープによる証拠については知らないと主張したが、1月31日にウィルフォードがニューヨーク・タイムズ紙に記事を書いたのである。この事件は誠実さの欠けたことを示すものであり、後に大衆と議会はその責任がNASAにあることを知ったのだ。
火災のあった週末中、記者連は自分たちの質問にたいしてあいまいな言い逃れの回答を絶えず受けたが、このことはジェミニ8号を思い出させた。ジェミニ8号のカプセルがコントロールを失って、危機が発生中に録音された通信テープが隠されたのだが、これは宇宙飛行士の音声レベルが彼らの行動について誤った印象を与えるかもしれないとNASAが信じたからである。
そのテープは後に公開された。これが完全をものだったとすれば、宇宙飛行士たちはすごいコントロールによってうまく処理していたことななるのだ。後に記者団はNASAの各頭文字をNever A Straight Answer(絶対に率直な回答を与えない)を意味するものだと言い始めた(訳注=1966年3月16日に打ち上げられたジェミニ8号は、先に打ち上げられたアトラスDロケットのアジエナ段とランデブー・ドッキングしたが、激しい横揺れが起こったために切り離して手動操縦装置により事をきを得た)。
大衆は盲目にされている
『アポロの航行・月の探険 の中で、リチャード・ルイスは、アポロ12号の飛行中に管制センターがどのような状況であったかを説明している。以下は彼の記事の要約である。
真夜中のこと、管制センターの制御盤の背後にあるガラス張りの展望室は重要人物で1杯だった。ペイン所長、ジョージ・M・ロウ副所長、宇宙飛行士のアームストロング、オルドリン、ボーマン、アポロの慣性誘導システムを開発したマサチューセッツ工科大学の装置研究所々長C・スターク・ドレーバー、それにヴュルナー・フォン・ブラウンなどである。
ニュースメディアのだれ1人として居合わせなかった。管制センターに新聞記者が入ることは許されをかったのだ。これはそのような規制がマーキュリー計画で確立されたからである。災害が発生したときに無秩序な報道が流れるのを防ぐためらしい。これはアポロ計画のずっと後の部分まで続いたが、ついにある共同ニュースサービスの代表者がジョンソン宇宙センターの展望室へ入るのを許されてくずれた。
以上までに提供した情報に照らしてみると、このようなきびしい防御手段がとられたのは単なる偶然ではないようだ。明らかに大衆はNASAによって慎重に選ばれた情報しか知らされていないのだ。そのなかには真実なのもあるが、大部分は目の6分の1引力の古い概念にもとづいた完全をでっちあげであったにちがいない。
ペイロードとは何か
月への道で出くわす種々の矛盾を概説するにつれて、宇宙船が月周回軌道に乗る話になってきた。次の段階は、月着陸船の燃料の必要条件に与える強い月の引力の影響を考えることにある。これは新たに恐怖の部屋を開くのだ。
惑星の表面から脱出するか、またはそれを回る軌道に乗るには、宇宙船を軌道の高さまで持ち上げて一定の最少限速度で飛行させねばならない。これには絶えず引っ張ろうとする引力に打ち勝つためと、宇宙船の運動エネルギーを増大させるためのエネルギーを必要とする。読者は、月へ人間を送り込んだアポロ打ち上げロケットが高さ109メートルもあり、2900トンの重量があったことを思い出されるだろう。打ち上げ時のアポロ11号ロケットの写真は本書(原書)の表紙写真の1つに示されている。これは時速34000キロの速度で月に向かって約45.3トンのペイロードを送るために設計された(訳注=ペイロードは有用荷重といい、旅客機ならば乗客と貨物、宇宙船の場合は塔乗員と観測機器を意味する)。
アポロ4号ロケットは地球を回る116キロの高度の円形軌道に125.4トンの物体を乗せた。地球から脱出するのに必要な燃料と速度を増大させれば、月に送るよりもはるかに大きをペイロードを軌道に乗せることができる。ロケットの総重量をペイロードの重量で割れば、ペイロードの比率が出る。アポロ4号の場合は、2900トンを125.4トンで割るのだから23対1の割合となる。このことは地球周回軌道に物体を乗せるにはペイロードの23倍の打ち上げ重量が必要であり、ロケットの重量の約90パーセントは燃料であることを意味するのである。
もし月が地球の6分の1の引力しか持たないとすれば、月着陸船が軟着陸したり月から脱出したりするには、うんと低いペイロード比が必要になるだろう。NASAの主張によれば、月着陸船は燃料満載時に15トンの重量があったという。これは上昇と降下の各段を含んでいる。
月面に着陸しているアポロ16号の着陸船は上昇と降下の両段から成っているが、この写真は本書の(原書の)写真に出ている。塔載された上昇段は4.8トンの重量があり、空の降下段は2トンの重量があるから、軟着陸の総ペイロードは6.8トンである。したがって軟着陸のペイロード比は15トン割る6.8トンとなり、2.2対1となる。
塔載された上昇段は燃料満載時に4.8トン、空で2.17トンの重量があったと思われるから、上昇ペイロード比はやはり2.2対1となる。もし月の引力が6分の1しかないとすれば、満タン時と空の着陸船の各重量は必要な燃料の量と一致する。燃料を入れておくタンクの大きさすらも妥当なものであるから、宇宙船の総重量は月の弱い引力の必要条件に一応ぴったりと合うのである。
もし平衡点距離が月から38400キロであるとすれば、6分の1の引力は考えられることであり、燃料の必要条件も満たされたと思われる。宇宙飛行士たちは着陸船で月面に着陸してから離陸し、計画どおりの月面探険を遂行できたであろう。
アメリカの月着陸の成功の話
しかしここには69592キロという別を平衡点距離と、それが意味する月の強い引力の問題が残っているのだ。月の引力は少なくとも地球の引力の64パーセントはあるはずだという情報によって、着陸船の燃料の必要条件が付録Eで計算されている。それによる月の引力の数字は、着陸と離陸に必要をペイロード比は少なくとも7.2対1になるはずであることを意味している。必要な軌道周回速度は、6分の1引力のもとで必要なそれの約2倍である。こうなると減速または上昇時の燃料は約4倍も多くなるのだ。
月の強い引力のもとでは燃料増加はすごいものとなる。まず上昇段は空の重量の7.2倍、すなわち15トンになる。次に燃料を満載した上昇段を軟着陸させるのに必要な燃料は、着陸船の総量直を約113トンにまで増大させるだろう。
したがって着陸船は149トンの重量と31メートルの高さをもつタイタン2号ロケットとほぼ同じほどの大きさになるだろう!
月着陸船は15トンの重量があると思われていた。したがってその重量と体積を7倍以上もふやす必要がある。驚くべき結論は次のとおりだ。もし人間が実際に強い月の引力条件下で月面に着陸したとすれば、それはロケットで着陸したのではないということだ! 再度言うと、69592キロの平衡点距離は、地球の引力の64パーセントに等しい引力が月にあることを意味するのである。かわって、64パーセントもの引力が月にあれば、月から脱出するだけでも大きをロケットが必要となる。まして離陸用ロケットを初めに軟着陸させることなどできるわけはないということになる。
かりに月が地球と同じ強さの引力を持つとしたら問題は大変なことになる。そうかもしれないということを示唆する証拠をあとで出すことにしよう。付録Eでは、月の引力が地球のそれと等しいとして、ペイロード比が18.2になるはずであることを示している!そうなると39.6トンの上昇段が必要となる。降下ロケットななると719.8トンという驚くべき重量となるが、これはサターン打ち上げロケットの大きさの4分の1である!そうなるとサターン打ち上げ船はこの64倍の重量を必要とするので、46000トンとなる。これは実際よりも約16倍大きい。
以上の謎によって興味深い疑問が少々起こってくる。なぜソ連は月面に人間を送り込む1歩手前まで来ながら宇宙開発競争から手を引いたのか? 月の強い引力条件下なら明らかにロケット類は作動しないのに、アメリカはどのようにして成功したのか? 月着陸を成功に至らしめた極秘研究における軍部の関与はどのようなものだったのか? 右の疑問にはあとの章で答えることにしよう。
証拠のすべてが出てくるまでは大がかりな隠蔽の実情は不完全であり、多くの疑問が未解決のまま残っている。アポロ計画のあらゆる面が慎重に調査されるまでは、読者はオープン・マインド(寛容の心)を保たれたい。
結局、大衆は取り込み詐欺師、政治屋、軍事専門家、科学者、会社などによって長いあいだ犠牲にされてきたのだ。納得させられるような話を聞くけれども、主張を実証するしっかりした証拠はほとんど出てこないのである。
月が強い引力を持つとすれば、宇宙飛行士たちは6分の1引力のもとで期待どおりの行動はできないはずである。月面上の彼らの跳躍能力の誇示は予想された結果とはほど遠いものななるだろう。次の第5章では6分の1引力の条件下で予想される宇宙飛行士の運動の離れ業を分析し、月面で実際に行動した様子と比較することにしよう。
第5章(1)へ続く |