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  ファティマの謎の太陽円盤 7つの謎と奇跡 より

第5章 出現した銀白色の物体
 

やがて9月となった。ファティマでルシア、フランシスコ、ジャシンタの3人の子供が聖母と会見したという噂は、いまやポルトガル全土に知れ渡り、9月13日の奇跡を待ちわびて、西海岸に近い辺鄙な寒村ファティマに、ぞくぞくと人々が集結した。

なかには英国や、遠いオーストラリアから視察に来た聖職者やジャーナリストもいた。この人たちは特に10月の大奇跡について詳細な記録を残しているのだが、それは後述しよう。

さて、神秘の貴婦人が再会を約した9月13日、3人はいつものとおり、正午前にコバ・ダ・イリアの渓谷へ向かった。

驚いたことに、この日のコバは立錐の余地もないほどの大群集で埋まり、3人の子供が歩行するすき間さえないほどで、渓谷に通じる沿道からして人間の波であった。この日の人出は約3万人と推定されている。

▲10月13日集まった群衆。
▲10月13日集まった群衆。

コバのヒイラギの木は、すでに多数の訪問者の手により引き技かれて、跡かたもなくなっていたが、そのかわりに木造の"出現の門"が建てられて、これが聖母の降臨の場所とされていた。

ここへ到着した3人は、すぐに祈りの姿勢に入り、「みなさん、ロザリオを唱えてください」とルシアが群集に向かって叫んだ。もちろんマイクもスピーカーもない時代だ。3万人の大群集に聞こえるはずはない。だがルシアのそばにいた人々がひざまずいてロザリオを唱え始めると、たちまち連鎖反応を起こして、みるみるうちに3万人の人々は地面にひざまずいた。

正午、大歓声がどよめいた。

「わーっ、出たぞ!」「あれを見ろ! 聖母だ!」

 明るく輝いていた太陽がにわかに光を失ったと思うと、コバ一帯は黄金色になった。

「聖母さまが、いらっしゃいます! あそこです! あそこ!」

ルシアが右手を上げて指さす碧空の彼方に、なんと銀白色に輝くタマゴ型の物体が、ゆるやかに東から西に移動して、"出現の門"のすぐ上まで来てから見えなくなったのだ! 

ルシアは早速、貴婦人とコンタクトを始めて、何事かを声高に話し続ける。人々はかたずをのんで注視する ―。

夏のコバ・ダ・イリアは3万人の熱気と異様な空気に満ちて、群集の低くつぶやく祈りの言葉が、巨大なハミングのどとく渓谷にこだまする。

ルシアは語り続ける ―。視線は、眼前の空間の一点に注がれたまま、体は微動だにしない。崇高な貴婦人の出現に圧倒されているらしく、ときどき首がうなだれるが、顔を上げると、にっこり微笑する。

群集に見えるのは、ひざまず心て顔を上方に向けたまま、"何者″かと語り続ける10歳のルシアの可愛い姿と、澄みきった青空だけだ。

15分が経過した。

「貴婦人さまがお帰りです!」ルシアの声が響いたとたん、大部集から、またも、どよめきが起こった。あの銀白色のタマゴ型の球体が出現して、コバの上空をゆっくりと上昇するではないか!

「聖母の乗物だ!」「聖母のお帰りだ!」

人々は驚異の目をみはって口々に叫んだ。たしかに奇跡的現象が発生したのだ。この光景は3万人の人々に目撃された厳然たる事実であって、3万人の錯覚ではない。このタマゴ型物体は、「聖母の輝く空艇」と呼ばれている。

神秘的現象はこれだけではない。この"空艇″の出現と同時に、ひとかたまりの純白の"雲″が降下して、3人の子供を包んだし、更にまっ白な綿状のものが空から降るのが見えた。ただし、地面にとどかぬうちに消滅したのである。

この第5回目のコンタクトで、貴婦人は次のように述べた。

「戦争(第1次大戦)が早く終わるように祈りなさい。10月13日には聖ヨセフとイエスをつれて来ますから、あなたがたも、当日は必ずここへいらっしゃい」

ルシアは尋ねた。

「聖母さま。数人の方から病気を治していただくように頼まれましたが、本当に治してくださいますか?」「治してあげましょう。でも、全部の人というわけにはまいりません。イエスは、あの人たちを信用していないのよ」

果たせるかな、病気さえ治ればよいという地上の俗物どもの心のなかは筒抜けだったのだ!群集には見えない貴婦人の幻影がコンタクトを終えて去って行くと、純白の雲は消滅し、不思議な綿雪も降りやんで、銀白色の球体は上昇し、太陽の光ももとどおりに輝いた。綿雪については写真に撮られているという。

とにかく、9月13日に出現した銀白色の未確認飛行物体はファティマ事件の信憑性を高めて、決定的なものにしたのである。

苦難の日々をすごす3人

3人の子供たちはますます難儀な目にあい、つらい思いをするようになった。ポルトガル全国から来訪する野次馬や視察団の面会に追われて、体を休めるひまがないのだ。どうせ相手は幼い子供だとばかり、なめてかかって、横柄な無遠慮な態度で、しつこく質問する者もいるし、最初から疑って、誘導尋問にかけて窮地におとしいれようとするジャーナリストもある。

一方、13日の奇跡的現象を目撃して、子供たちの熱狂的な支持者になった人々が、家の前に黒山のようにたかって、願い事を聖母に伝えてもらおうとして、大声で呼んだりする。その喧騒と熱気で、サントス家とマルト家は夜もろくに眠れぬ日が続いた。

この頃、両家の両親は、子供たちの体験を全面的に信じていた。そして、信ずるがゆえにひとつの悩みに胸を痛めていた。10月13日にもし奇跡が発生しなかったら大暴動が起こって、両家の家族は惨殺されるかもしれないと考えたからである。特に心配したのはマリア・ローザだが、これを娘のルシアが逆になだめて落ち着かせた。

「お母さん、聖母さまはきっと約束を果たしてくださいます。心配する必要はありません」

わずか10歳の娘ルシアの態度は見事であった。

10月13日 ― 問題のときが来た。"ファティマの熱い日"だ。すでに新聞と口コミで、この日に天地がひっくり返るような一大奇跡が発生すると喧伝されていたため、ポルトガル全土はいうに及ばず、ヨーロッパ各国からも新聞記者や学者、研究家、聖職者たちが、コバ・ダ・イリアへつめかけて、せまい渓谷は信者、懐疑派、野次馬などの大群集で埋まり、渓谷に入りきれない人々は沿道に待機した。この日の人出は推定6万といわれ、一説によると10万ともいわれている。

ところが、この日は具合の悪いことになった。過去5回のコンタクトの日はきまって快晴だったのに、この10月13日にかぎって、朝から土砂降りの大雨なのだ。群集はずぶぬれになり、渓谷の草原は群集の足でぬかるみと化した。すでに10月のこととて、冷気が骨身にしみとおる。

しかし、だれひとりとして帰る者はいない。信ずる者も疑う者もすべての視線は"出現の門"に注がれて、3人の子供の到着を待ちかまえている。

来た!11時40分頃、子供たちは両親につれられて、姿を現した。きょうは3人とも晴着を着ており、ルシアとジャシンタの2人は、空色の上衣に白いマントを着用している。

大群集の祈りの声と賛美歌の歌声が次第に広がって、一大斉唱となり、渓谷にこだまする ― 。

第6章へ続く

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