ヘルメット型の物体が出現
1974年1月7日の月曜日のことである。ベルギー人の]氏(31歳)はマイカー(アミ6)に乗ってコミヌからフランスとベルギーの国境の町ワルヌトンへ向かって走っていた。夜の8時40分頃で、ワルヌトンは目前にあった。雨が降ったために路面はぬれている。空に雲はなく、星々は輝き、微風だにない。月が美しく浮かんでいる(この翌日の2月8日が満月)。自動車用のシュナイダー・ラジオ・カセットプレヤーが鳴っており、車の速度は時速60〜70キロである。
突然、車のヘッドライトが消えた。と同時にエンジンもバタバタと音がして止まってしまった。ラジオも鳴らない。驚いた]氏がギヤをニュートラルに入れると、車は100メートルばかり走り続けた(この地点の道路の勾配は約1対20である)。そこで氏はハンドブレーキを使って車を止めた。すぐれた自動車整備工である氏は、ヒューズが飛んだと思い、車が停止するや否や外へ出て故障を調べようと考えていた。運転席側のドアの把っ手に左手をかけ(注:ヨーロッパの自動車は左ハンドル)、右手で軽く座席を押さえて体を浮かせようとした。
そのときである!頭を少し右へまわした氏の目にガラス越しに何か″が見えたのである。約150メートルむこうの道路に接した野原に、道路よりも少し高く立っているものがあるのだ。
最初はほし草の山かと思ったが、その物体が薄いオレンジ色の光を帯びているのに気がついた。しかもそれが3本足で立っていることもわかったのである。更に見つめていると、それはほし草ではなく、未知の物体であり、第1次大戦でイギリスの”トミ−たち”(兵士の俗称)が着用していたヘルメットに似た形をしていることもわかってきた。それが地平線上に黒い影のように浮かび上がっている。
2人の怪人が接近
ところが]氏の目は他のものに引かれた。車から約30メートル前方に2人の人影がガラス越しに見えるのだ。 農夫とその息子だな、と思ったが、すぐに違うことに気づいた。2人とも重々しいゆっくりした足どりで車の方へ近づいて来る。そして15メートル前で止まって、数秒後にまた歩きだす。今やその姿ははっきりとわかってきた。背の低い方はフランスのミシュラン・タイヤの広告に出てくる男のような姿をしているが、輪郭のはっきりしない輪が何個かついている。頭には丸いヘルメットをかぶり、大きな窓が前面にあるので、顔の大部分を見ることができた。右手には奇妙な物を持っている。3角定規に似ていて、怪人はピストルをかまえるような格好でそれ を車の方に向けている。
もう1人の人間〃はこれより少し背が高くて(約1.2〜1.3メートル)、低いほうよりも少々前の方を歩いていた。この男の姿は変わっている。頭には箱みたいなヘルメットをかぶっているが、両側は不透明で、前面だけがガラスのように透明であり、そのために気味の悪い顔が見えた。両名の顔は双生児のように同じである。頭の形は梨のようで、全体がかすかな灰色を帯び、瑪瑙の玉のようなまん丸い目が、人間の眼窩を思わせる部分のところで他の表面にくらべて少しへこんでいる。また眉のところにはやや弧を描いたような線がある。鼻は小さく、顔からごくわずかだけ突き出ている。 ロは水平な割れ目になっているだけで、唇はない。なにかの拍子に怪人がロを開いたときも舌も歯も見えなかった。
箱型ヘルメットの中で、あごの下に黒い長方形の”箱”があった。上下続きの服は金属製らしいにぶい灰色を帯びて、ヘルメットから手足の指先まで続いているようだ。
2人の怪人は接近し続けて来るので目撃者は詳細がわかってきた。長グツは重そうで、先がとがっている。箱型ヘルメットの上部には1種のチューブがある。これは呼吸装置または把っ手なのだろうか。
箱型ヘルメットの怪人の姿は仲間よりもひどく異なっている。少し背が高いが、運動選手みたいにがっちりした体格で肩幅が広く、騎馬闘牛士のように腰が細い。その腰には黒いベルトをしめているが、バックルがあるべき部分に、輝く−というよりも螢光を放つ−丸い物がついている。このベルトから左肩にかけて斜めに黒い将校用吊り皮〃に似た物を着けている。ヘルメットの底部から両肘に1列のボタンが並んでいるが、これはボタンだろうという目撃者の推測にすぎない。 両方とも腕がたいそう長く、両手はひざの下までとどいている。
]氏が2怪人の顔を詳細に観察できたのは、彼らのヘルメットの内部にやわらかい均一な光があったからだ。この光は外部には全然洩れないらしい。 目撃者はこの光がベルトの輝きに似ているという。
後頭部にショックを感じる
2人の人間〃がふたたび目撃者の方へ歩き始めてまもなく、そして彼らがみぞのすぐ近くまで来てまた止まったとき、]氏は後頭部の小脳のあたりに軽いショックを感じた。続いてその直後に音が聞こえたが、それは耳に響いた音ではないという。車のドアーはすべて閉じられていたのだ。低い、人工的な音で、これがしだいに大きくなってきた。
ここでもう1度強調すると、2怪人は、恐怖と驚きで座席に釘づけになっている目撃者の車から約4メートルの地点で止まったのである。目撃者が後頭部にショックを感じて音を聞く直前に、箱型ヘルメットをかぶった人間〃が話しかけようとするかのように口を開いたが、声は響かなかった。この数秒後に後頭部にショックを感じて人工的な音が聞こえたのだが、それまでには相手の口はすでに閉じられていた。
ところがこの2怪人に出会った最初から]氏は第1号(背の低い方)と外見が全く同じの第3の男〃に気づいていたのである。しかしこの者は終始UFOのそばにいて、その位置から動かなかった。2怪人と対面〃していた時間がどれぐらいだったかはわからない。こんな場合は数秒間でも長く感じられるものだ。対面中のある瞬間、箱型ヘルメットの人間〃の黒いベルトの左側から、クマゴ型の光る小物体が落ちたが、本人は気にとめない様子だった。この物休が固型物であったにしても、あとで再発見することは不可能である。というのはこの目撃事件と報告との間には2カ月半が経過しているからだ。目撃者はその間、嘲笑やトラブルが起こるのを恐れて沈黙していたのである。一方畑は、事件のことなど何も知らぬ農夫がクワを入れてしまったのだ。
怪人はロボットか?
さて、この対面″は急に終わることになった。突然、2怪人が完全な同時運動で首を左へくるりとまわし、自動車の後方を見たのである。低い人工音はやんだ。今度は後頭部にショックはない。そしてなおも完全な同時運動により、2怪人は片足を軸にしたかのように左方へ半回転し(軍隊式だ)、目撃者に背を向けた。ここで目撃者は相手の外観についてこれ以上詳細に気づいてはいない。ただ片方の体に黒い肩かけベルトが背中にたれ下がっていて、腰ベルトにくっついているのを見ただけである。2怪人はUFOの方へむかってぎこちない足どりで歩き始めた。彼らの歩行ぶりは人間とほとんど変わらず、脚は正常に動き、ひざも曲がるのだが、1つだけ特徴があった。2人ともぬれた畑のどろどろした地面を全く苦もなく歩いているのである。 大きな、先のとがった長グツをはいてでこぼこの地面を実になめらかに歩くのだ!
彼らがどんなふうにして乗物〃の中へ入ったかを目撃者は記憶していない。おぼえているのは、物体の3本の脚が消えたこと、続いて物体が地上50センチほど浮き上がり、数秒間停止してから60ないし70度の角度で航跡を残して水平に上昇し、ついに視界から消えたことだけである。UFOが3本脚を引っ込めてから上昇しようとしたとき、目撃者は車内のバックミラーに後方から近づいて来る車のライトがうつるのを見た。恐怖の緊張から急にわけのわからぬ解放感がわき起こった目撃者は、「わあっ。助かった!」とばかりにハンドルにばたりと上半身を落として、しばらく身動きしなかった。と同時に、夢を見ていたのではないか、それとも幻覚だったのかと考え込んでしまった。
一方、接近して来る車は−ベルギー人が運転していたのだが−ますます近づいて、やがて停止した。まん前に来て、ライトを照らしている。ベルギー人が降りて近づき、ドアーをあけると、1人の男がぐったりとしてハンドルにうつ伏せになっており、ドアーの把っ手をにぎった手はピタピタと震えている。
目撃者が体を起こすと、ベルギー人が尋ねた。 「あの連中にやられたのですかい?」目撃者が答えた。「あなたもあれを見たのですか?」「そうです」とベルギー人が言う。彼も見ていた。車のエンジンが数度とまりかけたが、ライトは消えなかった。
ベルギー人はまた車に乗って去っていった。今やヘッドライトもラジオも作動してきた目撃者の車は、スターターを何度か操作してエンジンをかけることができた。彼は家の方向へ一目散に車を走らせた。
ベルギー人ドライバーは目撃者(これはフランス人)に、物体の着陸の跡が残っているかもしれないので、それを探しにまたやって来るつもりだと言っている。もし彼らが何かを発見したとすれば、そのことは広く知れ渡るだろうし、発見できねばこれ以上の追求はしないとも語っている。 ベルギー人は目撃者の住所をメモして行ったが、それきり音沙汰ないためにベルギー人たちは何も発見できなかったのだろうと目撃者は考えている。
以下にあげるのは目撃時にUFOの様子を観察した結果である。
UFOの大きさ
高さ 地上からみて2.5〜3メートル。
直径 7〜10メートル。
構造
構造上の詳細は不明だが、頂上部がふくらんでいた。形の変化は見られなかった。
色の変化
(1) オレンジがかった白色
(2) 青色(ガスの噴出時の色)
(3) 赤色(ザクロ石の暗紅色)
(4) 電気火花の青色。やがて離陸。
怪人がUFOの方へ急いで歩き始めた瞬間から、パトカーの回転ライトのようにUFOの青色が点滅し始めた。 こうした色の変化は物体の表面で発生したが、観察し始めたときはオレンジがかった白色であった。各色は表面から外へ放射されたのではない。実際に放射された光はUFOの下部にある光で、機体内から出るらしく、3本の着陸脚のあいだの地面を照らし出した。 これは離陸時に消えた。
目撃継続時間中ずっとUFOは動かず、機体の形も変化しなかった。色が変化しただけである。目撃時間は約20分と推定される。時計はなかったが目撃者がその夜帰宅した時間のずれから推定できるのである。
付近には何軒かの家があるにもかかわらず、住民たちは何も気づかなかったらしい。インタビューされたこの住民たちは、当時テレビを見ていたがスクリーンに異常があったかどうかは思い出せないと言っている。
目撃者の車のラジオカセットは、あの体験後、調子がわるくなった。彼と妻はあれ以来ラジオがよく鳴らないのに気づいた。あのときは新品で、それまでは完全だったのだ。しかしUFO怪人との遭遇後、車で出かけるときはボリュームをあげる必要が起こってきた。番組は雑音や干捗などで聞きとりにくくなった。
第2の事件が発生
それからちょうど5カ月後に、また第2の事件が発生した。しかも全く奇妙なことに1974年1月7日の場合と全く同じ場所で、同じ時刻に、同じ状況で起こったのである!
例の目撃者がビジネスの再教育講座に出席した帰途のことで、注目すべきは、第2回目の6月6日は彼が2月に仕事で事故を起こして以来、この講座の出席を再開した最初の日であるということである。
今度は夏のこととて、まだ日は明るかった。車の中にすわって運転しているあいだ、すべては正常であった。目撃者はヒッチハイカーのように道路の端に立っている2人連れに気づいたのである(見たところ1月の事件のときと同じ2人組だ!) 最初のケースと同様にエンジンが数度弱まったが、ライトはつけてなかったために影響はなかった。外はまだ明るかったのだ。カセットプレヤーを使用していたが、これも止まってしまった。目撃者が2人の人間〃の手で車体に触れるほどのすぐ近くに車をとめた。だが運転者は座席から体を動かさなかった。慎重に……という気持がわき起こったのだ。
またも彼は後頭部に軽いショックを感じて、人工的な音が聞こえてきたが2〜3分続くと、人間たちはフッと消えてしまった。音も何もなく、まるで分解したかのように瞬時に消えうせたのだ!
この突然の消滅後数秒たってから、カセットプレヤーがひとりでに作動し始めた。エンジンもすぐにかかり、帰途についたが、この2度目の遭遇で体が震えたものの、第1回目ほどではなかった。このコンタクトのあとまもなくベルギーナンバーのフォード車が追い越して、約1キロ前方を走っていたが、運転者はどうやら何も体験していないらしく、道路わきに立っていた2怪人を見ていない様子である。ほんとうに見なかったのか、それとも怪人たちは見えないようにしたのか? ところで注目すべきことがある。この2度目の体験が始まるとすぐに、目撃者は付近に物体はいないかと畑のあたりを見廻したが、今度は何も見えなかったのである。地面や空間にUFOらしき物は何も見えないのだ。
目撃者はUFO研究家によって徹底的に調査されたが、本人の「見た」という信念について疑惑の余地はなかった。
久保田八郎訳 |