われわれはやっと星々と交信できるようになったけれども、文明の発達した他の星々はすでに異星との通信において数百万年の経験をもつのかもしれない。
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▲Carl E.Sagan教授 |
他の惑星に生命が存在し、地球人がいつかコンタクトするかもしれないと信じる科学者はふえている。ニューヨークのコーネル大学のカール・サガン教授は「いつの日か電波望遠鏡は他の星々からのメッセージをキャッチするだろう」と述べている。
サガン教授は宇宙に関する現代の予言者の一人であるが、目の燃えた夢想家ではない。教授は世界で最もよく知られている、すぐれた天体観測者の一人であり、しかも地球上でいかにして生命が誕生したかという重要な研究を行なった生物学者でもある。地球以外の生命の存在に関するサガン教授の確信は近隣の惑星の研究に基づいている。米航空宇宙局NASAは火星探査用ロケット、マリナー9号から送られてきたデータについての教授の研究を称賛し、特別科学業績メダルを贈った。
現在彼は米国宇宙船バイキングが火星に着陸し、火星に存在すると思われる生命体の調査をすることになっている1976年を胸を躍らせ待ち望んでいる。
「火星におけるごく単純な有機体の発見でさえも生物学上、深い意義をもつであろう」と教授は言う。そして教授 はある生命体が赤い惑星の乾燥した砂の中で発見されるのを待っているかもしれないと想像をたくましくしている。
サガン教授は火星の気候は非常に長い期間にわたって変化すると信じている。そして現在、火星は長い氷河期のもとにあると考えている。
そこでは植物の胞子やバクテリアなどのような単純な生命体が、数千年間ふたたび周囲が暖められるまで眠っているかもしれない。そうだとすれば、サグン教授はバイキングに積載してある機械がそれらを発見するだろうという希望をいだいている。火星の生命の知識は、地球上でいかにして生命が誕生したかという謎に関して科学者が理解を進めるのに役立つだろう。
サガン教授は火星の気候を地球人向きに変えることができるかもしれないという理論をもっている。 火星は地球にくらべて太陽からかなり遠くにあるので、相当寒い。大気中のガスは極冠に氷状となって凍っている。その結果、火星にはごくわずかの空気しか存在しない。ガスは火星を暖めることによってふたたび大気中へと広がっていく。サガン教授はこの火星を暖めることは火星の極冠上に植物の種をまくことによって可能であると言う。種が植物に育つとそれは太陽から熱を吸収し、極冠を溶かしてガスを空気中に放つようになると同時に、極冠からの水が地表を流れ始めるだろう。
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▲1934年生まれ。1996年12月20日没。 |
サガン教授はこのようなプロセスを「大地形成」と呼んでいる。そして彼はこのプロセスが長期間にわたって進展してゆくことにより火星を人の住める惑星に変えることができると信じている。
サガン教授が生命を発見することを期待している近隣の惑星は火星だけではない。彼は実験を行なった結果、巨大な惑星、木星を取り囲んでいる厚い雲の間にもある単純な生命体が誕生する可能性があることがわかった。
木星の大気を形成している水素、メタン、アンモニアと同じ種類の化学物質がかつて地球を取り囲んでいたと考えられる。地球上の生命はまさしくそれらの物質から形成されたのであった。
電波天文学者たちは最近それらと同じガス類が宇宙空間に充満していることを発見した。それらはとりわけ新しい星が形成されているガス雲の中で密集しているのである。
サガン教授はこれが偶然を越えた出来事であると信じている科学者である。教授は地球上に生命をもたらした同じプロセスが宇宙のいかなる場所でも当てはまるという理論を根拠としている。
そして大部分の天文学者が現在、恒星の誕生後、残されたチリから惑星が形成されたと信じていることから、この宇宙には他にもかぞえきれないほど生命を維持する惑星があると考えられる。平均的には、われわれが夜空を見上げて見る星々の10個に1個は生命の存在に適した惑星を持つかもしれないのだ。
ところが科学者たちは知的生物が生命維持可能なすべての惑星で生長すると仮定することは期待しすぎであると考えている。彼らはこれらの惑星の中の一部分の惑星だけに、われわれ地球人と交信可能なほどに発達した生物が存在するだろうと期待している。
1971年、米国とソ連の科学者の合同会議が開かれた際、彼らはこの問題について討論したが、席上サガン教授はわれわれの銀河系 − 夜空に点々と見える星の集まりや銀河と呼ばれる輝く帯状の広がりとなっている − には百万種もの発達した文明が存在するかもしれないとの結論を出した。
そのような文明が他の惑星に存在するか否かを探るための唯一の方法は電波を使って彼らと交信することである。しかしメッセージが往復するのには非常に時間がかかるので、われわれとしてはある文明の発達した星からわれわれがキャッチできる信号を送ってくれることを望んでやまない。何を期待すべきかはだれにもわからないが、人工的な信号は空電と区別しやすい。それはモールス符号のように律動的に送られてくるだろう。最も高度に発達した文明をもつ星ではたぶんわれわれが知らないような方法で交信を行なっているのかもしれない。
「われわれはおそらく、広大な国際電話や電信網の存在に気づかずに飛脚やドラムの音を使って交信し合っているニューギニアの谷間に住む住民と同じかもしれない」とサガン教授は述べている。
しかしチャンスはある。われわれは遠く離れた星の生物と最初の歴史的な交信をする能力があり、しかも多くの人々にとってはほんのわずかな心細いチャンスかもしれないが、カール・サガン教授のような科学者たちは努力することによって交信は可能であるとはりきっている。なぜなら彼らはわれわれが耳を傾けて聞こうとしない限り、歴史上最初の惑星間交信を行なうチャンスはまったくないということを知っているからである。
(イアン・リドパース) (終わり)
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