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 モスクワ郊外に現れた奇妙な人物

日本GAPニューズレター 第31号 昭和41年3月10日発行 より

 今から20年以上も前のこと、モスクワ近郊トウシノのチュカロブ記念ソ連中央航空クラブに非常に不思議な人物が訪れたことが、ソ連の天文学者アンクサンドル・カザンツェフによって伝えられている。ここにそれを記してみよう。

カザンツェフが航空クラブから家に帰ろうとしているとき、まるでだれかに会うような感じを受けて、帰宅をためらっていた。

するとそのとき一人の男が近づいて来た。その男の歩き方に彼は何か異様なものを感じた。その感じは、その男―異人― が近づくにしたがって強まった。異人は頭が大きく、背が低く、眼鏡をかけていた。頭には1本の毛も生えていなかった。  

カザンツェフが驚いたのはその異人の目が、相手を見抜き、すべてを理解しているような、大きな、賢そぅな、悲しそうな目であることだった。彼は異人をクラブに招き入れ、イスに座るようすすめた。異人は分厚い書類を机に置いて、おだやかに微笑して彼を見つめ、彼の目の中に軽いオドロキがあるのを見ており、彼の気持ちを感受したらしく、彼が言葉に出して問いもせぬうちにこう答えた。

「違います。これは文学の相談などのためなどではありません。私はあなたに生来役立つことをお話に来たのです。」

不可解にも異人は彼の考えを見抜き、自分は宇宙飛行士にでも地質学者でも医者でも技師にでもなれるのだが、そのどれでもない。ただ自分の故郷火星に帰るため、宇宙ロケットに乗せてほしと言った。

彼はその異人を狂人だと心に思った。その瞬間異人は「そうです精神病院にいました」と答えた。

「私はロシア語、フランス語、オランダ語、ドイツ語、中国語、日本語、その他地球で使われているどの言葉ででも書けたのですが、これは表現力と柔軟さをもたせる必要から、非常に古い賢い種族の言葉を使って書きました」

書類には不思議な記号がこまかく書き込んであった。彼は顔をしかめ、狂人のたわごとではないかと疑りたのである。「でも、どうしてこれが読めます?」彼はいらいらした。

その瞬間、異人の目におだやかな同情の気持が見えた。「この若い惑星 ― 地球 ― には脳にかわる機械が発明されたでしょう」と 異人が答えた。 

「それでは電子計算機でこれを解読できるというのですか」彼は言った。

「そうです。それにだれが書いたかもわかりますよ。」彼は異常さに手がふるえた。しかし、異人の、意志を伝えたり、読んだりする目には偽りの色を感ずることができなかった。異人は半年後再会することを約束して別れた。

その対面の直後、高名な数学者が尋ねてきた。この学者は16才で大学に入り、20才で博士候補になり、28才でアカデミー会員に選出された天才であった。この数学者が電子計算機のことを話し、翻訳できるサイバネティックスの機械についても話した。そのとき彼はこの数学者に不思議な会見のことを話し、解読を頼んだのである。そして電子計算機によってまもなく解読に成功した。その結果はほぼ次のようなものであった。

「これは日記である。1908年に悲劇的な事件が起きた。火星人たちの塔乗していた宇宙船がツングースカ密林に落ちてきて爆発したのである。そのときの生き残り乗員が日記を書いた。火星 − 亡びゆく砂漠の世界 − の人間は、地球の人間が自分たちに似ていることを記した。火星人は地球人のような発声方法で自分がだれであるかを知らせようと努力した。ところが、シベリアの商人と巡査は彼 − 火星人 − を狂人と思って精神病院に収容してしまったのである。

半世紀間、火星人は地球人と共同生活を続けつつ毎日日記を書き続けた。火星の民は太古の賢明な種族であって、地球の発展段階をとうの昔に経過してきており、ウソ偽り、偽善、ネコかむりなどの地球的人間関係をもっていない。火星人(異人)は火星の民よりはるかにうまくやてのけ、精力的である地球人が、いつか自分を、あの厳しいがなつかしい火星に送り返してくれるだろうと期待している。」

--囚(とら)われし人にとりては、真実とは"物象の影"以外に何の意味もなかるべし--
  プラトー"レバブリク七巻

(終わり)

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